いわゆる がん とは
●がんとは悪性腫瘍のこと
がんは悪性腫瘍のことです。腫瘍とは「自立性増殖」するという意味で、勝手に大きくなります。体の正常な新陳代謝とは違って、勝手に大きくなるということです。悪性とは「浸潤・転移」すると言う意味です。周囲にしみ出すように広がることが浸潤で、体のあちこちに飛び火することを転移といいます。
どんどんとしみ出すように大きくなって、あちこちに飛び火する腫瘍です。また腫瘍の総量が多くなると、体の栄養をどんどんと奪って、体を衰弱させます。そんな状態を「悪液質」といいます。
良性腫瘍の代表は子宮筋腫で、子宮が自立性に増殖しますが、良性ですので浸潤・転移することはありません。相当大きくなっても悪液質になることもありません。子宮筋腫は妊娠と間違うぐらい大きくなることもあります。子宮筋腫が相当大きくなっても子宮筋腫そのもので死亡することはありません。つまり悪液質にはなりません。子宮筋腫によって月経血が増えて、その結果貧血になり、命に関わることが稀にあります。
また、良性の脳腫瘍は、転移や浸潤することはありませんが、頭蓋骨(頭の骨)の中にできるので、脳腫瘍が大きくなると正常な脳の組織を圧迫して命に関わることがあります。そんな例外はありますが、良性腫瘍は基本的に命に直結する心配はありません。
●将来予測を含めてがん
改めて、悪性腫瘍とは、浸潤・転移する能力があって自律増殖するものです。相当な量になると悪液質を引き起こして体が衰弱します。つまり今すでに浸潤・転移しているものはもちろん悪性腫瘍ですが、将来浸潤・転移する可能性があるものも悪性腫瘍なのです。
ちょっと不思議ですね。例えば、心筋梗塞は心臓を栄養する血管が詰まって、心臓の筋肉が死ぬ病気です。心筋梗塞を起こす手前の病態を狭心症と言います。こちらは心臓を栄養する血管が狭くなって、心臓の筋肉が半殺しになる状態です。しかし、筋肉は死んでいないので回復します。がんの場合は、悪性となった悪性腫瘍も、悪性になる手前の悪性腫瘍も、ともに悪性腫瘍なのです。心筋梗塞と狭心症が異なる用語で語られていることとは正反対です。
つまり、既に人を殺している殺人者と、将来殺人者になる可能性がある人をひとまとめにしています。浸潤・転移していない段階のがんは、まだがんの本領を発揮する前段階です。そんな段階で治療をすればまったく問題がなくなるということです。ですから早期発見・早期治療と言われるのです。
浸潤・転移する前のがんをどうやって診断するのでしょうか。すでに浸潤・転移していれば悪性腫瘍との診断に異論は出ません。ところが将来浸潤・転移するものも含めてがんですから、将来を予測する必要があります。そこで組織を取って顕微鏡で見て、過去の膨大な経験から、浸潤・転移した悪性腫瘍の細胞と似ていればがんと診断しています。
つまり見た目で診断しているので、病理医の経験が必要です。乳がんなどでは診断が難しいものがあり、組織を採取しても良性とも悪性とも決定できないことがあります。病理医によって意見が分かれることもあるのです。将来浸潤・転移すればがんだという確定診断になるのです。そう遠くない未来に、人工知能が病理医に変わって診断するようになるでしょう。過去の膨大なデータとの相関を導き出すのは人工知能の得意技です。
●いつ浸潤・転移するかわからない
まだ浸潤・転移していないがんが見つかったとしましょう。つまり組織を顕微鏡で見て、過去の経験から将来浸潤する可能性が極めて高いと言うことです。極めて高いということは例外があるという意味ですね。人の命は限りがあります。どんなに医療が進歩しても125歳までという科学者もいます。
限りがある命で、その限りある点まで浸潤・転移しなければ、実は良性腫瘍です。浸潤・転移しても、その限りある点まで悪さをしなければ、がんと一緒に人生が終了すれば、実は「悪性腫瘍」でも悪性はないでしょう。そこが重大な問題点のひとつで、いつ浸潤・転移するかが今の医学では解らないのです。
浸潤・転移してもいつ命を脅かす状態にあるかが不明なのです。前立腺がんなどは高齢で天寿を全うした方を調べると相当高率に見つかると言われています。80%以上に見つかるとも言われています。天寿まで浸潤・転移しない、浸潤・転移しても悪さをしないのであれば治療をしないという選択肢もOKになるのです。
●がん、ガン、癌 の違いは?
がんと癌は実は慣用的に使い分けられています。がんは悪性腫瘍のことですが、漢字の癌は、上皮性の悪性腫瘍です。まず悪性腫瘍は3種類に分類されます。
- 血液の悪性腫瘍:白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫など
- 上皮性の腫瘍:肺癌、乳癌、食道癌、胃癌、大腸癌、肝臓癌、膵臓癌、子宮癌、卵巣癌、喉頭癌、咽頭癌、舌癌、膀胱癌、尿管癌、腎癌、前立腺癌、皮膚癌など
- 非上皮性の腫瘍(肉腫とも呼ばれます):骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、線維肉腫、脂肪肉腫、血管肉腫など
上皮性とはなんでしょうか。皆さんが小さな小人になったと思って下さい。その小人が辿り着ける場所が上皮です。まず皮膚からスタートします。つまり皮膚は上皮です。口から食事のルートで入ります。舌、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、肛門はすべて上皮の部分があります。その表面から発生したがんが、舌癌、食道癌、胃癌、十二指腸癌、小腸癌、大腸癌、肛門癌となります。
肝臓で創られる胆汁や膵液は十二指腸から排泄されます。つまり肝臓も膵臓も外界と繋がっているのです。肝臓癌、胆嚢癌、胆管癌、膵臓癌となります。
次に鼻から呼吸のルートで進んで見ましょう。咽頭、喉頭、肺で、その表面から発生したがんが咽頭癌、喉頭癌、肺癌となります。
次はオシッコのルートを逆に辿りましょう。尿道、前立腺、膀胱、尿管、腎臓です。その上皮から発生したがんが、尿道癌、前立腺癌、膀胱癌、尿管癌、そして腎臓癌です。
女性の生殖器を辿ってみましょう。膣、子宮、そして卵巣です。卵子は卵巣から出て子宮に向かうので小人も卵巣まで辿り着けるのです。その上皮に出来たがんが、膣癌、子宮癌、卵巣癌となります。
母乳のルートにある臓器は乳腺です。ですからここも小人が辿り着ける場所に出来たがんは乳癌です。
小人が辿り着けない場所は、ひとつは血液です。白血病やリンパ腫、骨髄腫などが代表的な血液のがんです。
上皮性のがんでも、血液のがんでもないものは、非上皮性のがんで肉腫とも呼ばれます。骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、線維肉腫、脂肪肉腫、血管肉腫などがあります。上皮性のがんで登場した○○癌の項目は、すべて○○肉腫も存在します。上皮ではない部分から発生した「がん」であれば、○○肉腫となるのです。胃肉腫や乳腺肉腫もありますよ。
つまりがんは悪性腫瘍全般で、癌は上皮性の悪性腫瘍となります。ですから全国にある「がんセンター」は「癌センター」とはなっていないのです。
●誰でもがんになる可能性がある
現在、日本人は一生のうちに2人に1人は何らかのがんになります。50%の人ががんに罹るということです。ところががんで死亡する人は約20%です。ですから、がんに罹患しても半数以上の人がんでは命を落としません。がんは昔思われていたような不治の病ではないのです。
●予防できるが完全には防げない
がんは禁煙や適切な食生活、適切な運動、適切は生活習慣で予防することができると言われています。しかし、完全に防ぐことは出来ないとも言われています。膨大なデータを集積して、そして後日解析するとどんな要因ががんを引き起こしやすく、どんな要因ががんを引き起こしにくいかが判然とするのです。こんな研究をビッグデータ解析と言います。中国では、ここ数年スマートフォン決済が主流になり、位置情報もGPSでデータ化されています。そんな情報の提供に中国の人は抵抗がないようです。ですから膨大な医療情報も蓄積されています。一方で日本では個人情報漏洩のリスクを忌避して、医療情報の蓄積は相当遅れています。後世にどんな生活が本当に健康に資するかを伝えるためにも、医療情報は公共財として蓄積するべきだと思っています。医療のビッグデータ解析を行い、正しい医療情報を後世に伝えることは今を生きている僕たちの責務なのです。
●がんは人にはうつりません
がんは遺伝子が傷ついて起こる病気です。がん自体が人に感染することはありません。一部のがんはウイル等の感染症が背景にありますが、それ以外の様々な因子が重なって発病するので、ウイルスに起因するがんもうつることはありません。