セカンドオピニオン事例9 乳癌「誤診」

Stethoscope and doctor sitting with laptop stress headache about work in hospital

48歳 女性

乳癌の可能性が高いと言われて、手術を予定されています。本人は手術を出来れば避けたいので相談されました。

乳癌検診で行われたマンモグラフィー(乳腺のX線撮影です)で、がんが疑われる所見が見られました。乳腺の超音波検査でもしこりが見られました。そこで針生検が行われました。針生検とは、麻酔をして太い針をしこりに刺して、がんが疑われる組織を取ってくるのです。ゴルフのグリーンの穴を創る道具とか、地面をボーリングする器械のイメージです。針の中に組織が入ってくるのです。これを顕微鏡で見て、がんかどうかを確認します。

そして、彼女が持って来た病理所見を拝見しました。マンモグラフィーや超音波検査の結果も持参されましたが、なにより病理所見がキーデータです。マンモグラフィーや超音波検査といった画像診断でがん疑いであっても、病理検査でがんでなければ手術は不要です(しこりを正しく採取していることが条件)。反対に画像診断でがんがほぼ否定されても、病理検査でがんであれば治療されることが多いのです。つまり最終診断は病理検査にかかっています。

その病理所見には、「強くがんが疑われる」とありました。僕は以前一般・消化器外科医としてたくさんの乳癌の手術を行っています。また慶應義塾大学病院では6ヶ月間、臨床病理でたくさんのがんの標本を見てきました。僕がコメントを書いて、病理の専門医がダブルチェックをするというシステムです。そんな経験から乳癌の診断は難しいと知っていたのです。胃癌や大腸癌を間違うことはまずありませんが、乳癌の確定診断を下すことは本当に難しいのです。その病理のコメントに病理医の精一杯のメッセージを感じました。

以下が彼女に告げた内容です。

「画像診断は、病理組織がある現状ではあまり意味を持ちません。大切なことは病理医のコメントです。がんが確定とは書いていません。先方の病院はほぼがんだということで乳癌の手術を予定しています。手術はひとまず延期してもらって、がんの手術件数が日本一の病院の病理の先生にもういちど診てもらってはいかがでしょうか」

彼女は僕の勧めに従って、その手術の延期と、そして病理組織のプレパラート(顕微鏡で見るためガラスの間に検体が挟まっているものです)を借りて、そして乳癌をたくさん診断している病院でセカンドオピニオンを受けに行きました。

先方の返事は、「乳癌ではないと思うが、経過観察が必要」という結果でした。つまり手術は回避できたのです。乳癌を専門に診ている病理医からすると、手術を強く勧めるほどの悪性所見が乏しいということでした。

セカンドオピニオン3.0が普及し、日本中がひとつの病院のようになれば、今回の遠回りの結論は避けられました。病理医が自分の診断に一抹の不安があるときは、医師自らもセカンドオピニオンを求めるシステムが構築されればいいのです。そのためにはセカンドオピニオン3.0が必要なのです。

しかし、医療は不確実で不正確なのです。彼女の乳腺はがんらしきものが出来やすい素地があるのです。ですから今回最初の病院が勧める手術をして乳腺を全摘すれば乳癌になる可能性はゼロになります。なぜなら乳腺が存在しないからです。そんな可能性も加味して、「要観察」とセカンドオピニオンを施行した病院も附記しているのです。

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