がんの治療法(手術、化学療法、放射線治療、それ以外の方法、民間療法)について

All for the treatment of the patient.

●がんの3大治療

がんの3大治療は、手術、薬物療法(化学療法)、そして放射線治療です。

●手術

手術は病巣を摘出しますので、他に転移がないときには手術が検討されることが多いのです。転移していない状態でがんを切除できれば、根治を期待できるからです。問題は、臓器の全部または一部を切除しますので、機能障害が残ることがあります。胃を全部摘出すれば一気に大食いすることはできなくなります。

脳腫瘍では、脳の機能が障害されるので、腫瘍の場所と切除範囲がその後の人生にとって重要になってきます。食道がんや膵臓がん、胆管がんなどでは、切除した後、食事や、膵液、胆汁の通路を確保しなければならないので、難しい手術となることが多いのです。手術のためには全身麻酔が必要とされますので、全身麻酔が行える体力があるかも大切な要件になります。

●薬物療法

薬物療法は化学療法とも呼ばれます。こちらは通常は薬物を内服するか静脈内に投与します。場合によっては腹腔内投与や、カテーテルを用いてがんを栄養する動脈に投与することもあります。どの投与方法を用いても薬物は全身を巡ることになります。ですから、全身にいろいろな副作用が出ることがあります。薬物療法には、抗がん剤、ホルモン剤、免疫賦活剤などがあります。

▲抗がん剤で治癒可能ながん

抗がん剤で治癒可能ながんは、小児の急性白血病、成人の急性骨髄性白血病、成人の急性リンパ性白血病、悪性リンパ腫、精巣(睾丸)腫瘍、卵巣がん、絨毛性がん、小細胞肺癌などです。

▲抗がん剤を延命目的で使用するがん

抗がん剤を延命目的で使用するがんは、頭頸部がん、食道がん、非小細胞肺癌、乳癌、胃がん、大腸がん、膵臓がん、膀胱がん、子宮がん、外陰がん、膣がん、悪性黒色腫、軟部腫瘍などです。

▲「抗がん剤が効く」とは

医者が「この抗がん剤はよく効く」といっても、実はCTやMRI、超音波検査などで50%面積が縮小していれば効果ありと定義されるのです。これは医療サイドの言葉の定義の問題です。医療が現場主義になっていない好事例と思っています。現場は、つまり患者さんは「この抗がん剤は効く」と言われれば、がんが消滅することを連想しますよね。しかし、医療サイドは50%の面積の縮小で成功と考えるのです。お互いのイメージが乖離しているのです。医療不信を招く原因のひとつでもあります。

●放射線治療

放射線治療は「やけど」をさせているイメージです。つまり外科治療と同じで局所だけを治療しているのです。薬物療法のように全身に影響は出にくいものです。メスを入れる訳でもないので、3大治療の中ではもっとも体に優しいとも言えます。放射線にはいろいろな種類があります。電子線、X線、ガンマ線、陽子線、重粒子線などです。また照射する方法は外部照射と内照射があります。外部照射は高エネルギーを発生させる装置から出される放射線を利用する方法で、患者さんが放射線照射装置がある施設に通うのです。内部照射はがん病巣に放射線源を埋め込むので、患者さんがどこに移動しようが照射線は常時照射されていることになります。

●3大治療以外の方法に効果はあるか

がんの3大治療以外で明らかなエビデンスがあるものは存在しません。明らかなエビデンスとは医者も患者も実薬か偽薬かがわからない二重盲検臨床研究(RCT)です。漢方や生薬、サプリ、健康食品などでは最近の信頼出来る二重盲検臨床研究がないということです。

一方で、僕ががんには良いだろうと思っている有酸素運動は二重盲検臨床研究ができません。運動をしているか、していないかは患者さんが知っています。ですから、自然とバイアス(思い込み)を除去できないのです。

体を冷やさないことも大切と思っていますが、これも二重盲検臨床研究はできません。まして希望を持つことを強く勧めていますが、これも二重盲検臨床研究はできません。二重盲検臨床研究の限界です。

3大がん治療以外のものは、副作用が稀で、金銭的に問題なく、かつ本人や経験ある臨床医が「使用しても悪くはないだろう」と思えるものを使用するという作戦になります。

永く二重盲検臨床研究がなかった漢方や生薬、サプリ、健康食品の領域ですが、最近例外が登場しました。つまり二重盲検臨床研究に勝ったものが登場したのです。フアイア(huaier)という中国産の生薬で、これは明らかなエビデンスが登場しました。中国では抗がん新薬として臨床で使用されていますが、本邦では食品として利用可能です。

●些細なことの積み重ねを大切に

僕たちの研究グループが2013年にイグノーベル医学賞を受賞しました。オペラ「椿姫」を聴いていると、体内に免疫制御細胞が誘導されるというマウスの心臓移植モデルを用いた研究が受賞論文です。僕たちの研究室からは、オペラのような音響刺激以外でも、漢方薬の臭いや有酸素運動も免疫制御細胞が誘導されるという論文もあります。

免疫制御細胞は体の免疫制御を司る細胞群で、これが正しく働いていると体の免疫系が正しくコントロールされるので、さまざまな病気が好転すると思われているのです。音響刺激や臭い、そして有酸素運動などは、ある意味些細なことなのです。そんな些細なことも実は免疫に影響しているということが受賞の理由です。

がんの治療に関してエビデンスがある治療を最優先に選択することは当然です。スポーツで喩えると、エビデンスがあるとは、その選手の有無で勝率が明らかにことなるということです。しかし、そんな優秀な選手は誰が監督でも使用するのです。優秀な監督とは、通常のレベルの選手をどう使用するか、明らかに優秀な選手とどう組み合わせるかといったことが勝利に繋がる手腕になるのです。

ところが、医療ではエビデンスがないものは使わないと言い放つ医師が少なくないのです。エビデンスがあるものは当然に使用して、エビデンスがない些細なものでも精一杯に組み合わせるという、チームスポーツでは当たり前の考え方が欠如しています。そんな些細なことも大切だというメッセージが世界に発信できたので、本当に価値あるイグノーベル医学賞と思っています。些細なことの組み合わせ、積み重ねは本当に大事です。

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